個人再生と「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の違い
1 自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン
正式名称が長いため,以下では「債務整理ガイドライン」と呼称します。
債務整理ガイドラインは,過去の大規模震災,集中豪雨等の被害にあった借り入れのあった方の救済のために利用されてきた実績がありますが,令和2年12月1日付で,新型コロナウイルスによる債務整理の場合にも適用されることになりました。
2 個人再生との利用条件の違い
⑴ 前提条件
ア 前提として,新型コロナウイルスの影響を受けたことが債務整理ガイドライン利用の条件となります。
影響は,実際に新型コロナウイルスり患による廃業,解雇等といった直接的なものだけに限られず,勤務先の業績悪化による減給,売上減少等も含まれます。
イ 他方,個人再生の場合にはそういった前提条件はありません。
⑵ 債務整理ガイドライン独自の要件
ア 債務整理ガイドライン利用にあたっては,
①基準日(令和2年2月1日)以前に原則として期限の利益喪失(返済の滞納)がなかったこと
②免責不許可事由(破産法252条1項各号。ただし10号を除く。)がないこと
の2つの要件を満たしているかどうか方針選択の重要なポイントになってくるといえます。
イ 個人再生の場合,過去に滞納があっても手続きを利用することができますが,上記①のとおり,債務整理ガイドラインの場合には原則としてできないことになっています。
もっとも,債権者が同意した場合は例外とされておりますので,わずかな滞納が過去に何度かあった程度の場合であれば債権者が債務整理ガイドラインの利用に同意する場合も想定されます。
「ギャンブル,浪費等の免責不許可事由があっても認可を受けられる場合がある」というのは個人再生利用のメリットの1つといえますが,債務整理ガイドラインの場合,上記②のとおり条件を満たさなくなってしまいます。
そのため,ギャンブル等を理由とした借り入れの場合には個人再生を選択することになります。
⑶ 成立要件
ア 債務整理ガイドラインによる債務整理の場合,対象となるすべての債権者から調停条項案についての同意を得られなければ調停を成立させることができません。
イ 他方,個人再生の場合,小規模個人再生であれば一部の債権者の反対があっても認可を受けることができます。
給与所得者再生の場合には同意の要件自体ありません。
3 債務整理ガイドラインが利用できる場合のメリット等
⑴ 信用情報
債務整理ガイドラインを利用した場合,過去に滞納等がなく,スムーズに手続きを完了することができれば,信用情報(いわゆるブラックリスト)に登録されないというメリットが指摘されています。
信用が傷つかなければ,個人事業主の事業継続のしやすさが変わってきますし,給与所得者の場合であっても,ブラックリスト登録により新たに自動車ローンが組めなくなる,といった問題の回避が期待できます。
⑵ 費用
債務整理ガイドラインを利用することができる場合,登録支援専門家への報酬等の支払いは運営機関が行います。
利用者本人の金銭的負担は,基本的に特定調停申立費用に限られることになります。
お役立ち情報
(目次)
- 任意整理と「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の違い
- 個人再生と「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の違い
- 自己破産と「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の違い
- コロナウイルスで自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインを用いた場合の手続きと流れ
- 「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」を使える条件
- 「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の対象となる債務
- 個人事業者が「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」を使った場合の事業への影響
- 「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」を使う場合にかかる期間
- コロナウイルスの影響で特定調停する場合の流れ
- 「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」を用いた場合に残せる財産
- 「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」と特定調停
- 「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」と「ブラックリスト」
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